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日本の「クラフト」を巡る旅の魅力を、世界へ ー前篇ー

LOCAL CRAFT JAPANが提案する、過去と未来をつなぐ1/365の景色。
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日本の「クラフト」を巡る旅の魅力を、世界へ ー前篇ー

初めての佐渡島滞在で生まれた、交流体験型ツーリズム構想。

コロナ禍をきっかけに誕生し、2020〜2022年にわたって開催されたLocal Craft Marketは、僕たちトランクデザインにとって大いなる学びの宝庫でした。しかし実はこの企画には、下敷きとなる構想がありました。それがLocal Craft Marketより1年早い2019年に着想していた交流体験型ツーリズム企画、LOCAL CRAFT JAPANです。

2019年1月、ミテモ株式会社の澤田哲也さんに誘われ、僕は初めて佐渡島を訪れました。宿泊したのは虫崎という海沿いの限界集落にある民家です。目の前には夕日が沈む雄大な海。食卓には、近くの山で採れる山菜の天ぷらや、目の前の海からあがった新鮮な魚介。地元の方々の心尽くしと、土地の恵みがふんだんに詰まったおもてなしは、都会では決して味わえない豊かさに満ちていました。

そして佐渡島でも、竹細工や無名異焼(むみょういやき)といった伝統工芸の担い手と出会いました。僕はこれまでも日本や台湾で、さまざまな作り手に会う旅をしてきましたが、その中で彼ら彼女らと一緒にご飯を食べたり、お酒を飲んだりする時間は、何にも代えがたい贅沢でした。こんなふうに、その土地特有のものづくりや歴史文化を知る人たちと一緒に、観光ガイドブックには載っていない魅力を発信できないだろうか。以前から漠然と抱いていた思いが、この佐渡島の旅でより明確な決意となったのです。

2019年に佐渡島を訪れた際の様子

佐渡島の無名異焼

佐渡滞在の最終日、澤田さんと僕は、温泉に浸かりながら「日本全国の作り手に会いに行けるクラフトツーリズムを作りたい」と語り合いました。僕たちがそのツーリズム確立に必要だと考えたのは、
①クラフトマン
②その土地の歴史、文化、ものづくりにまつわるコンテンツをキュレーションできる地域プロデューサー
③旅のガイド役(ゲストハウス運営者や通訳などの役割)という3タイプのプレイヤーです。
これら三者を各地域に育てていけば、知的好奇心の強い海外観光客にも魅力的なコンテンツになるはず。これが僕たちの描いたLOCAL CRAFT JAPANの枠組みです。

まず5地域から、ローカルの魅力発信チームの醸成スタート。

しかし、その構想を形にする前に、日本のみならず世界中がコロナ禍に突入。旅行どころではない日々の中、僕たちは日本全国の作り手と生活者をつなぐべく、オンライン上のクラフトマーケットLocal Craft Marketの立ち上げと運営に奔走することになりました。それでも、Local Craft Marketがあれだけ短期間で立ち上げられたのは、すでに前年にこのツーリズム構想が生まれていたからとも言えます。

そして2021年、アフターコロナを見据え、ミテモ澤田さんは「LOCAL CRAFT JAPAN実行委員会」の名のもと、観光庁の補助事業にこのツーリズム企画を申請。見事補助金を獲得します。Local Craft Marketを企画運営してきた実績や、海外からのインバウンド獲得を意識した戦略が評価されてのことでした。

僕たちはまず手始めに、無名異焼(新潟県佐渡島)、木曽漆器(長野県木曽平沢)、おりん(京都宇治)、吉野林業(奈良県吉野)、デニム(広島県福山市)という5つのローカルクラフトで、プロジェクトをキックオフすることに決めました。この5地域を選んだ理由は、これら各地にすでに信頼できる地域プロデューサーがいたからです。僕たちは彼ら地域プロデューサーを核に、各地でインバウンド観光を受け入れるチーム醸成に取り組み始めます。この準備期間には約半年をかけ、ツアーの作り方から受け入れ体制の整備まで、オンラインで議論を重ねました。同時にトランクデザインは各地を回って撮影を行い、それぞれの地域のプロモーションムービーを制作しました。

LOCAL CRAFT JAPANが提案したい「クラフト」と「旅」とは。

さらにこの準備期間に、僕たちは改めて自分たちが提案したい「クラフト」と「旅」の定義を言語化し、各地域のメンバーと意識共有を行いました。たとえば、LOCAL CRAFT JAPANにおける「クラフト」とは、
①地域固有性を未来に受け継ぐもの 
②人の手から生み出されているもの
③現在も暮らしとともに存在するもの  
という3つの側面を持つものです。

そして「旅」は、
①ガイドブックに紹介されている定番ではなく、オリジン(起源)をめぐる 
②ローカルで人と出会い、対話をしながら時間を過ごす 
③過去、現在、未来をつなぐ1/365をともにする 
という3つを大切にすることとしました。

LOCAL CRAFT JAPANの公式サイト(日英バイリンガル対応)には、これらのこだわりを踏まえ、各地域で練り上げられた旅のプランが掲載されています。

台湾・香港・シンガポールのオンラインエキシビジョンで得た手応え。

記念すべきローンチは2022年1月。まだ海外渡航はむずかしい状況だったため、トランクデザインが普段お世話になっている台湾・香港・シンガポールの卸先に全面協力をお願いし、3カ国でオンラインイベントを同時開催することにしました。

狙いは各国の参加者に「コロナが明けたら日本のクラフトを訪ねる旅に出たい!」という気持ちを持っていただくこと。それぞれ自前の実店舗を持っているところばかりなので、そこへ5地域のクラフトを送り、集客と販売を行ってもらいます。そして会期中には日本の5地域とオンラインでつないで、産地を自由に巡るオンラインクラフトツアーや、各地域の魅力を紹介する10分間のプレゼンテーションなどを行いました。

このオンラインイベントで人気を呼んだのが、名古屋工業大学の田中由浩准教授が手がける「触覚VR」を生かした体験コーナーです。これは職人が感じている触感や振動といった体感を遠隔で共有できるもの。たとえば吉野杉の伐採時にチェーンソー越しに感じている振動を、データ化して伝送し、遠隔地の振動子に伝えます。そうするとこの振動子を手に装着した台湾の参加者も、木こりと同じ触感を味わえるという仕組みです。

吉野杉を振動子とし、映像とリンクさせて、職人の手仕事を感じる臨場感ある体験に

こういったオンラインの実験を意図的に取り込むようになったのは、Local Craft Marketの経験を経たからでもありました。Local Craft Marketが、産地への「どこでもドア」となったのは、オンラインだからこそできたことです。リアルとオンラインを比べて、「やっぱりオンラインには限界がある」と思考停止になってしまうのではなく、その違いをポジティブに生かしたいという思いが、僕の中で強くなっていました。

後篇に続く)

Written 2024.02

このプロジェクトを経て

2023年
LOCAL CRAFT JAPANに新たに4産地のツアーを追加

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