兵庫県の伝統産業のいいものを集めて、その魅力を全国に伝えたい。その思いから2012年にスタートしたのがトランクデザインのオリジナルレーベル「Hyogo craft」。2011年は作り手との出会いを求めて、意欲的にものづくりの現場を訪ね歩いた年でした。江戸時代から続く先染め織物・播州織と出会ったのもその時期です。とはいえテキスタイルデザインやアパレル生産はトランクデザインにしてみれば未知の世界。すぐには具体的行動に移せないまま、1年以上の月日が流れたある日、「シャツを作ろう」と思い立ちました。なぜなら、生地を織れる人、パターンが作れる人、ボタンが作れる人、ミシンが使える人が自分の周りにいたからです。普段から自他ともに認めるシャツ好き。よそにはないオリジナルなものが作りたい。そこで、現地の織元である遠孫織布株式会社にデザインを持ち込み、「織りの手法も色もすべてお任せします」と伝えたところ、遠孫織布が打ち出したのはジャカード織。平織に比べてはるかに精緻な柄が表現できるのが強みです。できあがったサンプルは、生地自体に表情があり、単色でもオリジナルな存在感が引き立つもの。僕の大好きなものが一つ増えた瞬間でした。
ブランド名を「iRoDoRi(イロドリ)」としたのは、店を訪れるたびにいろんな色のシャツが並んでワクワクできる、そんな世界を実現したかったからです。そこで、一種類の生地で500メートルなどといった大量生産が当たり前の産地に、トランクデザインは「その時にある糸と色で、10メートルだけ」織ってもらう少量生産の仕組みを考案しました。円をつないだジャカード織のパターンだけは共通で、あとはいつ何色の生地が織り上がってくるかわからないけれど、とにかく織り上がったものは全部買い取る、という信頼関係にもとづいた特殊な発注方法です。パターンを手掛けるのは友人である山口クミ。僕なりの理想のシャツのニュアンスをすべて咀嚼し、オリジナルの型を起こしてくれました。木のボタンは「森の器」でも使用している間伐材や地域材です。
初めて手掛けた「オリジナル生地で作る、自分たちが着たい服」。その自信を足がかりに、次に叶えたいことは「最高の白生地で作る最高の白シャツ」です。第2の皮膚と呼べるような快感に満ちた着心地と、デイリーに愛用できる品質。そんなシャツづくりの構想が、もうすでに始まっています。
iRoDoRiの展開で産地に通ううちに存在を知ったのが、織元から出る余り布。余り布だからサイズも種類もバラバラだけど倉庫で眠っている限りはただの端切れです。これをデザイナーやパタンナーの技術やセンスによって命を吹き込み、「たった2枚しか作れないシャツ」になれば、それはストーリーを持った存在に姿を変えます。そんな大量生産、大量消費というサイクルではなく今偶然出会ったもので作るという、iRoDoRiのスピンオフ的なブランドが「megulu」。生地との一期一会の出会いを生かし、細部にまでこだわった少量生産のモノづくりを行うことをテーマとしています。たとえば、麻専門の織元が生産するリネンの白生地を使って、シャツを100枚作り、10色10枚ずつ天然の草木染で染め分けて展開しようという企画も、meguluらしい取り組みのひとつ。これからは播州織だけでなく、産地の明確なものであれば国内外を問わず、布との偶然の出会いから生まれるモノづくりが広がっていきそうです。