SINCE 2010-

活版印刷プロジェクト

手のぬくもりを感じるレトロ印刷を、現代に生かす。
#活版印刷 #魂を受け継ぐ #町の暮らしに近いデザイン #ワークショップ #セルフプロジェクト #印刷工場 
活版印刷プロジェクト

縁あって出会った2台の活版印刷機とともに。

トランクデザインには2台の活版印刷機があります。ひとつは2010年に購入した70年代英国製「ADANA8×5」という小型機。もうひとつは、2011年に譲り受けた半自動機手フートと呼ばれるものです。2009年頃から地場産業に関わる方々と出会い、伝統の技やものづくりを守り続ける姿勢に触れる中で、僕の中に芽生えたのが、「自分なりの立ち位置で、歴史や文化を次世代に伝えていく活動ができないか」という思い。トランクデザイン立ち上げ前は印刷業界にいたことや、紙の加工が好きだったことなどから、辿りついたひとつの手段が活版印刷でした。

使い方も分からないまま購入した1台目で、どうにかこうにか活版印刷の基礎知識を習得。その後は足りない部品や活字などを揃えるため、印刷業界の知り合いに片っ端から声をかけていたところ、京都の「ふくみかっぱん」という印刷所が廃業するから、不用品を譲り受けないかという話が飛び込んできました。そこで活字や部品は言うに及ばず、年季の入った手フートまでも譲り受けることになった僕は、その一切合財をトラックで神戸に運びながら、「これは機械や部品を貰うんじゃない、魂を受け継ぐんだ」という思いを新たにしていました。

商店街のたい焼き屋のように、町ゆく人に活版印刷の仕事を見てもらいたい。

通りに面したガラス張りのトランクデザインに運び込まれた活版印刷機は、町ゆく人の目に留まるようになり、中には「昔、活版印刷の仕事をしていたことがある」と懐かしそうに話す年配の女性もいました。商店街のたい焼き屋で、主人がたい焼きを焼く姿が見えるのと同じように、この町の暮らしに近いところで、活版印刷ができる様子を人々に見てもらおう。それが僕の想いでした。

トランクデザインにとって活版印刷の師匠は、75歳になる印刷工の岩井さん。今でも活字を組む作業は、字体の種類を豊富に持っている岩井さんにお願いしていますが、文字組を細かく微調整するそのテクニックには舌を巻くばかり。できあがった文字組を取りに訪ねていくたび、喫茶店に誘われ、さまざまな昔話を聞かせてもらうのも貴重な学びの時間です。岩井さんの持つ熟練の技に支えられつつ、今の感性を生かして新鮮味のあるクリエイティブなデザインを生み出すこと、それがトランクデザインの使命です。

活版印刷がつなぐ、人と人とのコミュニケーション。

トランクデザインには「活版印刷で名刺を作りたい」というオーダーが多く寄せられますが、基本姿勢として「ご本人が自分の手で刷る」ということを大切にしています。名刺を渡す場面や、そこで交わされる会話に思いを巡らせながら一枚一枚刷った記憶が、名刺を使うたびに心に甦ると思うからです。実際に印刷作業に訪れる方々は、失敗作に笑ったり、刷り終わっても名残惜しそうに印刷機を写真に撮ったりと、豊かな時間を過ごしています。

また活版印刷のワークショップも不定期に実施。トランクデザインの店内で開催するほか、時にはセレクトショップやカフェ、小学校などへ出張することもあります。活版印刷目当てに、遠方の他府県からはるばる訪れる方もいて、そんな方には地元神戸や垂水のおすすめスポットを紹介するマップをプレゼントするなど、活版印刷を介した人と人とのコミュニケーションを大切にしています。

2019.09 執筆

このプロジェクトを経て

2021.10
PROTOオープン
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