「場所を超えて、作り手の想いにふれる」をコンセプトに掲げ、2020年5月にローンチしたLocal Craft Market。オンライン上のクラフトマーケットとして、その後2年間にわたり全11回の開催を重ねたこのプロジェクトは、トランクデザインにとっても、全国に仲間の輪が広がったエポックメイキングな経験となりました。
ことの起こりは、全国に緊急事態宣言が出された4月にさかのぼります。僕は誰もいないオフィスに出向き、ひとり片付けや考えごとをする日々を送っていました。そんな僕に、相談の電話やメッセージが毎日飛び込んでくるのです。市場に魚が出せなくて困っている漁師さん。新商品商談の場を奪われてしまったメーカーの方々。これまでモノを介して成立していた、人と人とのコミュニケーションがストップしてしまったことによる、先の見えない不安。それは、ECサイトを作れば解決するというような単純な話ではない、と感じました。
そこで僕が考えたのは、さまざまな作り手がオンラインで接客できるプラットフォームを立ち上げよう、ということでした。それもみんなで一緒に楽しめるイベント仕立てだったら面白い。というわけで、早速、それまでにも何度か事業をともに手がけてきたミテモ株式会社の澤田哲也さんにアイデアを打診。それが4月30日のことです。
澤田さんと「やろう!」と盛り上がってからは、まさに一気呵成。オンライン会議ツール「Remo」を活用しプラットフォームを構築するのと同時並行で、つながりのある作り手に片っ端から声をかけていきました。事務局はミテモとトランクデザインを核に、普段から親しくしている人たちが協力してくれることになりました。
会場となるのは、5階建の百貨店のようなバーチャル空間。ログインしたゲストが1階エントランスに足を踏み入れると、テクニカルサポートのメンバーが待機していて、各フロアの案内をしてくれます。そして2〜4階には出展者のテーブルが並び、ゲストは好きな作り手を自由に訪ねて商品の説明を受けたり、工房を案内してもらったりという体験が可能。気に入った商品があれば、各社のECサイトに飛んで購入できるという仕組みです。それはまさに、家に居ながらにして、全国に散らばった作り手訪問の旅ができる「どこでもドア」でした。オンライン技術を使って、日本全国の作り手を巡り、知らなかった地域の文化・風景・思いに触れる。それは単にECサイトでモノを買うだけでは得られない、新たな価値体験です。
もちろんプラットフォームを作るだけで事足りるわけではありません。当時ほとんどの人がオンライン商談に慣れていない状況だったため、開催前に出展者対象に説明会兼勉強会を開いて、基本操作のレクチャーをしたり、どんな見せ方が必要かを話し合う時間を持ちました。この説明会兼勉強会は、その後も開催のたびに毎回行いましたし、そこからオンライン飲み会へとつながって、本音を言い合える関係ができていった気がします。
こうして、構想から2週間と少しという短い準備期間を経て、2020年5月16、17日の両日、「Local Craft Market β」の試験開催に漕ぎ着けました。出展料も入場料も無料で、全国各地から地場産業の担い手約30社が出展。そして運営は全員ボランティアで、僕たちのSNS投稿を見たクリエイターや学生、行政マンが、仕事抜きのプライベートで協力してくれました。
この初回で手応えを得た僕たち事務局は、それ以降、2ヶ月に1回ペースでの開催を続けます。行動制限の緩和に伴い、できることの幅も増えていくことを見越していたため、僕たち運営側は、イベントのフォーマットをガチガチに固めることはしませんでした。むしろ決めていたのは「毎回違うことに挑戦する」ということ。事務局メンバーも広報チームや企画チームなどに別れて、それぞれにSlackでやりとりしながら、スタッフによる作り手取材をインスタライブで発信したり、カスタムオーダーを受注する企画を展開したりと、さまざまなアイデアを形にしていきました。
また、開催後は毎回オンライン反省会を開くのですが、そこでは集客や売上確保に成功した出展社の方を呼んで、どんな接客の工夫をしたかなどのノウハウを話してもらうようにしていました。また出展社側から運営側に対して「もっとここをこうしてほしい」という要望が出ることもあり、そんな「知恵のシェア」によって、回を重ねるごとにイベントの精度は確実にアップデートしていきました。
そうこうしているうちに、大阪梅田の商業ビル「ルクア」から思いがけないお誘いがかかりました。少しずつ街に人が戻ってきていた背景もあり、オンラインとリアルを融合したLocal Craft Marketイベントを店頭で展開したいとのこと。
ちょうど当時、東京都から都内11の島をブランディングする「東京宝島プロジェクト」への協力要請をいただいていたタイミングでもありました。そこで僕たち事務局は、6回目となるLocal Craft Marketを、「島」に特化した「Islands Market」と銘打って、2021年の2月の4日間にわたってルクアでポップアップストアを展開することに。東京はもちろん新潟、兵庫、熊本、沖縄の島々から集めたローカルクラフト品の販売に加え、店頭入り口に設置した大型モニターを介して、来場者が全国の作り手とオンライン上でコミュニケーションできる仕掛けを展開し、好評を博しました。
その後2021年も後半に入ると、世の中はコロナとの共存へと本格的に舵を切っていくことになります。僕たちとしても、Local Craft Marketの役割は一旦終了したと判断し、2022年2月、11回目のイベント開催をもって、活動に幕を下ろすことにしました。
回を重ねるごとにつながりがつながりを呼んで、想像もしていなかったスピードで人の輪が広がっていったLocal Craft Market。ここから生まれた人間関係は、とにかくフラットでカジュアルです。伝統工芸の作り手が学生とつながったり、クリエイターが行政マンとつながったり、というこれまでにない出会いも多々。立場の違いも距離も超えて全国に仲間が増えたことは、僕たち運営側にとっても、出展社の方々にとっても、最大の収穫でした。そして、ここで生まれた関係性が、次なるチャレンジ「LOCAL CRAFT JAPAN」にもつながっていくことになるのです。